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                                                         作 櫻井孝佑(2014年度 卒業生)

概要

背景
私達の祖先は太古の昔から、太陽や月、星、虹、暗闇といった、光が絡む自然現象に尊敬や畏怖の念をもちながら、生活を営む上で上手に利用してきました。
その豊かな自然環境は今、いったいどうなっているでしょうか?
地球の自然環境は、生物圏(Biosphere)、地圏(Geosphere)、水圏(Hydrosphere)、大気圏(Atmosphere)の4つの領域に大別されます。これらはさらに宇宙空間(Space)へと繋がっていきます。それぞれが互いに密接に絡み合いながら、良好な自然環境が維持されてきました。
ところが今世紀に入って、異常気象、温暖化、大気質や水質の悪化、土壌汚染、森林破壊、生物多様性の減少など、様々な問題が顕在化してきました。
これらはいずれも、私達の日常生活に大きな影響を“与える”と同時に、人間生活の営みが自然環境の変化に影響を“及ぼして”いるとも言えるのです。

手法
齊藤・冨田研では、4つの領域の他に、私達の日常生活環境を“生活圏(Livingsphere)”と新規に定義することを提案します。
そして、生活圏と各自然環境の関係を調査する手法として、“光技術”の積極的な利用方法を考えています。
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考え方のヒントは自然環境そのものに隠されていました。自然環境は“光”に満ち溢れているのです。
このことは、自然環境自身が光反応(相互作用)を行っている、と捕えることができます。
自然環境と相性の良い光は、環境を調査するための優れた手法になるのです。

自然環境を調査対象物質と捕えるとすると、調査手法の原理として“物質と光の相互作用”が挙げられます。
相互作用には散乱、吸収、発光があります。物質に光を照射すると、物質の形状等に依存して光が散らばります。これは散乱現象です。
光を吸収するものであれば、照射前後で光強度が減少します。物質によっては吸収した光を別の光として放出し新たな光を放出します。これは発光現象です。
相互作用を“光の情報技術”を駆使して調査することで、自然環境に関する情報を集めることができます。

目標
齊藤・冨田研究室では、私達の祖先が尊敬や畏怖の念を抱いていた光を新たな“光情報技術””として再構築することで、
人間-環境に関する様々な情報を収集し理解する光技術“環境情報の光センシング技術の開発”を目指します。

研究課題

次の二つのテーマを課題として研究を行っています。
1.自然・生活環境センシングのためのライダー技術開発
2.宇宙線センシング(モニタリング)のための光センシング技術開発
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1.自然・生活環境センシングのためのライダー技術開発

1−1:高機能レーザー誘起蛍光スペクトル(LIFS: Laser-induced Fluorescence Spectrum)ライダーの開発

大気汚染原因物質に大気中浮遊微粒子「エアロゾル」があります。その中には花粉や黄砂、PM2.5など人体に悪影響を及ぼすものがあるため、
大気エアロゾルの情報を得ることが求められています。そこで私達はレーザー誘起蛍光をスペクトル用いたLIFSライダー(図1-1-1)による大気エアロゾル蛍光観測を行ってきました(図1-1-2)。
これはエアロゾル固有蛍光スペクトルを利用した種類判別性や時空間分解かつ即時性に優れた観測法です。本研究では特に生物由来バイオエアロゾル挙動の時空間情報センシングを中心に、
地上~高度約100mまでの生活圏内大気を対象とした高機能LIFSライダーの開発を目指します。 HP-LIFS_LIDAR.jpg
     図1-1-1 LIFSライダー外観                図1-1-2 黄砂飛来時におけるLIFSライダー観測例

1−2:可搬自立型LIFSライダーの開発

地球環境は様々な形態(大気圏、水圏、地圏、生物圏、生活圏)を持っています。本研究では、様々な形態に対応可能なライダーシステムの開発を行っています。
特徴は、形態を構成する分子のレーザー誘起蛍光を利用していること、軽自動車に搭載できるコンパクトさと自家発電機を備えていることです。これにより、いつでもどこでもどのような形態でも
観測が可能なJust-in-time LIFSライダーが完成しました(図1-2-1)。信州大工学部内でのエアロゾル起源物質調査、諏訪湖での水質多成分同時観測(図1-2-2)の実績があります。
さらに長野市周辺での飛散花粉や植物生育分布観測などを目指します。 HP_pLIFS.jpg
     図1-2-1 可搬自立型LIFSライダー                    図1-2-2 諏訪湖でのアオコ濃度の観測結果例

1−3:エアロゾル蛍光データベースの開発

エアロゾルは私達の健康、地球環境、気象等に大きな影響を及ぼします。その中には黄砂などの上空から落ちてくるものだけでなく、動植物の腐敗物やプラスチック廃棄物など、
生活圏内の地上物質に由来するものもあるはずです(図1-3-1)。その実態を探るためLIFSライダーによる大気エアロゾル蛍光観測を行ってきました。
観測データからエアロゾルの種類や量を特定するには、あらかじめエアロゾル起源物質ごとの蛍光情報を知っておく必要があります。
そこで本研究では、励起・蛍光マトリックス計測(図1-3-2)と量子効率計測結果に基づいた、物質の蛍光特性をまとめたデータベースの構築を目指します。 HP_LIF_DB.jpg
       図1-3-1 エアロゾル発生のシナリオ         図1-3-2 励起・蛍光マトリックス例:ヒマラヤスギ花粉(左)、プラスチック(右)

1-4 植物健康診断画像システムの開発

植物は酸素発生・景観構成・農作物等、様々な方面で重要な役割を担い、失われた際の私達の生活への影響は大変大きなものとなります。
本研究では、植物に 様々な波長の光を照射して得られる情報から、植物の健康状態を非破壊的に検査する技術の開発を行っています。
システムを製作し(図1-4-1)、基礎実験の結果、内部構造(X線)、光合成(可視)、水分(近赤外・中赤・テラヘルツ)、熱反応(熱赤)の多様
な生理情報が得られることがわかりました(図1-4-2)。今後はシステムの高精度化と共に多情報を組み合わせた植物健康診断の指標策定を進め、
将来的には植物健康診断用多波長ライダーの開発へと発展させます。 HP-plants.jpg
          図1-4-1 基本システム外観             図1−4-2 多波長情報取得例:試料(a)、X線画像(b)、可視画像(c)、近赤外画像(d)、
                                      中赤画像(e)、熱赤画像(f)、テラヘルツ吸収スペクトル(g)

2.宇宙線センシング(モニタリング)のための光センシング技術開発

宇宙線 観測: Telescope Array (TA)実験

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 TA実験は、米国ユタ州ミラード郡の西部砂漠地帯で行われています。
TA実験では、宇宙線により生成される空気シャワー現象を、 大気蛍光望遠鏡(上中央図)と地表粒子検出器(上右図)アレイの2種類の検出器により観測しています。

大気蛍光望遠鏡は3箇所に建設された望遠鏡ステーション内にそれぞれ十数台設置されています。
また、地表粒子検出器アレイは、1.2km間隔に置かれた512台のプラスチックシンチレーション検出器から構成されています。
望遠鏡ステーションの間隔は約35kmにもなり、地表検出器アレイのカバーする面積は約800平方kmとなります。
これにより、1998年まで日本で行われていたAGASAの約10倍の測定感度を実現します。
TA実験では、精度のうえでも既存の観測よりも1桁以上の改善を目指しており、様々な較正装置を開発しています。
斉藤・冨田研究室では、主に大気蛍光望遠鏡の較正装置の開発やその解析を行っています。
Telescope Array HP:

2−1:Opt-Copter (Standard light source mounted UAV for Telescope calibration)

TA実験で使用している大気蛍光望遠鏡(FD)群は3箇所に点在していて、それぞれは約30km離れています。
我々は、すべてのFDで同一の光源を見た時のゲイン値を測定し、比較することでFDの感度較正を行いたいと考えています。
同一の光源で測定するためには光源は可搬型であること、またFDは空を見上げているため視野内に入れるよう飛行できることが求められます。
そこで、これらの条件を満たす新たな較正装置、UAV搭載型標準光源(Opt-copter)の開発を行っています。
これまでの研究結果から、感度較正のみならず、ジオメトリの解析にも用いることができるのではないかと期待されています。

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図2-1-1 UAV搭載型標準光源(Opt-copter)   図2-1-2 FDの感度較正を行っている模式図

2−2:Cloud monitor by Fish-eye CCD

TA実験では大気蛍光望遠鏡施設と大気透明度計測用のレーザー施設の計3ヶ所に魚眼レンズを搭載した可視光のCCDカメラを設置しています(図2-2-1)。
現在は観測者が実験時に撮影された画像を見て観測時の天候判断材料の1つとして利用しています。
本研究室ではCCDカメラで撮影された夜天の画像データを用いて星解析を行い(図2-2-2)、
観測の有効時間の算出、晴天方向の特定、観測地の晴天率の算出、リアルタイム解析をソフトウェアによる一律の基準で夜間天候をモニタリングするシステムの開発を行っています。
現在は星解析の確からしさを評価し、ソフトウェアの信頼性の評価を行っています。
また、太陽光発電を用いた完全自動化も目指しており、将来的には宇宙開発など他の領域での利用も考えています。
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   図2-2-1 TAサイトに設置されているCCDカメラ           図2-2-2 ソフトウェアによる星解析例
                             (緑:星,青:星以外の明るいピクセル,赤:解析に使用しないピクセル)

2−3:CLF (Central Laser Facility)

Central Laser Facility(CLF)と呼ばれる、リアルタイムで大気透明度を算出可能とするライダーの研究開発を行っています。
TAサイトの各3台のFDの中央に配置されたCLFから射出されたレーザー光の散乱光を各FDで観測することによって大気透明度(大気の状態)の算出が可能となります。
TA実験グループでは、宇宙線が大気に突入する際の相互作用である蛍光発光現象をFD(大気蛍光望遠鏡)で撮像し、間接的に宇宙線観測を行っています。  
蛍光発光地点からFDの間で空気中には大気分子やエアロゾル(塵、もや、砂)などが浮遊しており、FDにおいて蛍光を観測する手前で蛍光が散乱し減衰してしまいます。
そこでCLFによる大気透明度の解析を行い、FD観測における大気散乱による蛍光への影響度を算出可能にし、現FDの観測精度の向上を目指し研究を行なっています。

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2−4:CRAFFT (Cosmic Ray Air Fluorescence Fresnel Telescope

宇宙から飛来する高エネルギーの粒子(超高エネルギー宇宙線)のエネルギー、到来方向、質量組成を測定する装置として、大気蛍光望遠鏡(FD)があります。
到来頻度が少ない超高エネルギー宇宙線の観測統計量を増やすため、本研究室では低コスト大気蛍光望遠鏡(CRAFFT)を開発しています。
CRAFFT望遠鏡では、従来の大気蛍光望遠鏡に比べて構造を簡単にすることで、資材費・建設費を削減しています。
また、将来的には自動観測システムも導入し、人件費も抑えたうえでCRAFFT望遠鏡の大規模展開を目指しています。

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      図1 車載観測の様子                 図2 TA実験サイトにて行った疑似宇宙線観測結果

Members

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発表論文リスト

競争的資金獲得状況

新技術開発財団「植物研究助成」:植物生育診断分布の遠隔計測が可能な植生蛍光スペクトルライダー装置
科学研究費基盤A(分担):降水によるエアロゾル発生現象:大気-森林相互作用の新展開
韓国建設技術研究院・信州大学理学部共同研究:韓国ダム湖水質観測プロジェクト

科学研究費若手B(代表):『飛行型標準光源による世界最高レベルの精度での宇宙線観測の実現』

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Last-modified: 2017-10-10 (火) 18:05:05 (44d)